たんじゅんさん訪問 第7回
中村 勉さん (ブラジル・サンパウロ・スザーノ市)
上と下を育て続けて2年 1.5m~3.0m団粒化
・ ブラジル・サンパウロ市近郊で、夫婦で農業をやってきた。現在61歳。
・ 2008年5月から、たんじゅん農法を知り、実践。現在5ヘクタールを耕作。
・ 炭素資材は、キノコの廃菌床。年に100トン/ha撒き続ける。
・ 収穫後2日も空けないで植え続けて丸2年。
・ 1年目は、葉野菜(レタス、キャベツ、白菜)を5作。2年目に入って、大根なども。
・ 野菜は、虫、病気もなくなり、慣行農法以上のでき。味もすっきり、おいしくなる。
・ 収穫物は、農産物販売商の息子が引き取り、他の生産者の物と一緒に(同値で)販売。
・ 硬い赤粘土。棒が10cm入る土が、転換2年3カ月後、1.5m~2.0m、最大3.0m入る土に。
・ 植え付け・収穫は二人で手作業。草取り一人雇用。課題は5haの収穫物の運搬の省力化。
2010年8月5日~8日 訪問
正直にそのまま実践
たんじゅん農法のホームページを作っている林幸美さんの案内で、中村勉さんを訪ねた。林さんの家から、車で15分ぐらいの所に、中村さんの畑がある。非常に緩やかな傾斜地に、畑はあった。横幅が200mの畑に、縦道が2本。250mの道が、上から下に、下りている。上と下の高低差は、20mぐらいあるだろうか。
遠く、広い平野が見渡せる、眺めのいい南向きのその5haの畑で、中村さん夫婦は、一昨年の5月から、たんじゅん農法をはじめた。それまでは、普通の農法を40年以上やってきた。
中村さんは、転換して、2年と3カ月。正確にたんじゅん農法を実践している。これほど、忠実に実践している方は、世界にいないのではと言えるほど。
1)炭素資材は廃菌床、毎週2回もらってきて、微生物にエサをやり続ける。
2)作物は、収穫すると、前作をすきこみ、3日と空けず、次作の苗を植える。
3)1年目は、葉野菜中心。2年目で、根菜類。3年たつと果菜類。
4)水を控えることで、空気を十分に微生物に供給する。
たんじゅん農法、2年3カ月の畑が広がる。道の両側に、いろいろな植え付け時期の作物が植わっている。空いた畑がほとんどない。そのほとんどが葉野菜。レタス、キャベツ、ハクサイ、そして、春菊、カリフラワー・・・。
よくも、夫婦ふたりで、これだけの苗を植え続け、炭素資材の廃菌床を、年間1ha当たり100トンも入れたものと、感心する。(廃菌床は、林さんのキノコ工場から、もらってきて、収穫して後の畑に入れ、かきまぜている)。苗を植えるも、菌床撒きも、収穫も、手作業だから、並みの作業量ではない。夜明けとともに動きだし、夜はヘッドライトをつけて、収穫ということもあるという。
最近、畑を4haから5haに増やしたので、草引きだけは、女の方を1名雇って、手伝ってもらっているそうだ。1作に1,2回、草の芽が出たころを見計らって、鍬でかいている。
レタスなど、葉野菜は、植え付けから2月半で収穫でき、しかも、1年中、取れるそうで、年5作。さすがブラジル。
自然界はとてつもない力を持っている
ブラジルの土は、いろいろ。でも、大体は、赤い砂を固めたレンガのような堅い土。棒をさしても、10cmも入らない。その土が、2年と3月で、どのくらいまで団粒化しているか。それを調べてみた。
雨は、2週間降っていないという。5haの畑のあちこちに、鉄の棒をさしてみる。(棒の太さは10mm、先だけ23mmの紡錘形、1mごとにつなぐ。林幸美さん作成 補足1 参照)。ほぼ、どこも1.5m~2.0m入る。下のほうのレタス畑は、3mの棒が、ちょうど、全部入った。
しかも、棒を入れ始めて、終わるまでの時間が、13秒。あっという間に。
あまりにあっけなく棒が入るので、中村さんもびっくり。それが納得できなくて、中村さんは、次の日、隣の方の畑を訪ねたという。同じ土だから、隣の畑も、かなり棒が入るのではと考えて、棒をさしてみた。ところが、いくら頑張っても、せいぜい30cmしか入らなかった。それでようやく、中村さんの畑で、それほど棒が入るのは、この農法の成果だと納得した。
林幸美さんは、たんじゅん農法で、いずれ3m以上団粒化すると、予想はしていた。だがしかし、2年ちょっとの畑で、それを目のあたりにして、驚いていた。棒がするすると、入っていくのを観ていると、人間の考えでは計り知れない、大きな力を感じる。自然はマンモス、とてつもない力と仕組みを持っている。
人間は、自然を理解したとしている。中には、自然を支配したと考えている方もいる。しかし、自然を人間の側から見て、そう考えているだけ。もしかすると、自然の側から観ると、ほんのわずかしか、観えていないことが分かるであろう。
たかが団粒化 されど団粒化
棒が3m入ったことは、土の団粒化がそれだけ進んでいることを示す。たかが、団粒化、3m。それが、自然の働きと、どう関係があるのだろうか。団粒化が進むと、何か、地球に大きな変化が起きるのだろうか。
その兆しが、中村さんの畑で起きている。
まず、作物の変化。つやがある。光っている。虫がつかない。病気が出ない。元気がいい。収穫までが早い。収量も当然増す。味がいい。まずさが消えて、おいしさが濃い。
生で食べると、それがわかりやすい。さっとゆでたものか、塩をかけるだけで、野菜のおいしさが口一杯に広がる。こんなにも、野菜はおいしいものなのだ。おいしかったのだ。これなら、子どもの野菜嫌いはなくなる。いや、野菜好きが増える。これなら、アレルギーやアトピーはなくなるだろう。
次は、畑の管理。
中村さんは、雨が2週間降らなくても、野菜には水をやっていない。それでも、野菜は、ぐんぐん育つ。(苗を植えた直後は水をやっている)。ブラジルの冬は、雨がほとんど2,3カ月降らないことも珍しくない。バナナを栽培しているブラジル中心部の山田農園では、4月から8月まで4カ月雨が降っていない。
そんなブラジルでは、団粒化によって、水を常時やらなくて済むというのは、画期的なこと。団粒化した土は、表面の10cmが水分の蒸発を防ぎ、下の土は保水性があり、その水分が足らなくなれば、地下水を吸い上げる。
また、夏場、ブラジルは大雨が降る。それも、一時に豪雨が降る。すると、畑が川になって、表土が押し流される。せっかくの養分が、雨のたびに、流れてしまう。
写真左 2月大雨で表土が流れ出したサトウキビ畑 写真右 大雨でも、全部畑に浸み込んで流れない中村さんの畑
ところが、中村さんの畑は、その大雨が降っても、この農法を始めて2年、表面を水が流れなくなった。降った雨が、全部、畑に浸み込んでしまう。どれだけ、大雨が降っても・・・。それは、中村さんのような傾斜のある畑にとっては、雨対策がとても楽になる。
そんなことは、信じられないようなことだけど、あれだけ棒がすっと、3mも簡単に入るのを見せつけられると、団粒化すると、畑が巨大な貯水槽に変わるだろうと、納得できる。
雨がたくさん降り続こうが、日照りが続こうが、畑の状態が安定しているということは、一年を通して、4作も、5作も、同じ畑で連作し続ける、この農法では、畑の管理が楽だ。
ブラジルと日本を比べる
中村さんは、たんじゅん農法に転換して、2年3カ月で、1.5mから、最大3.0mの団粒化を実現した。27か月で、そうだから、1月あたり、5cmから10cmの速度で、団粒化していることになる。一方、日本では、この農法をやり始めて、数年たつ方も結構いるのに、団粒化は、せいぜい、70cmぐらい。まだ、1mも団粒化しているところはないのではなかろうか。日本は、団粒化の速度が、ブラジルに比べて、かなり遅い。それどころか、団粒化が、ある程度で止まっているところもある。
その違いは何によるのであろうか。
一番大きな違いは、気温。(ブラジルといっても広いが、サンパウロあたり、大まかなところで)なにしろ、8月のブラジルは、冬だというのに、日が照ると、シャツ一枚で過ごせるほど。もちろん、曇って、日が落ちると、風は冷たかったが、重ね着をすれば、済む程度。
泊めていただいた林さんのお宅には、暖房器は、炬燵がひとつだけ。それも、ほとんど、使われていないようだった。
ブラジル・サンパウロあたりの冬は、日本の春と秋に近い。日本から見れば、ブラジルには、冬がない。そんなところだから、畑の作物は、年中植えられ、収穫できる。レタスなどは、苗を植えてから2か月半で収穫でき、すぐにまた苗を植えるから、年に5作。
画像があった形跡有(注;転載スタッフ
日本よりも、ブラジルは、気温が高いだけに、微生物の活動が活発で、作物への養分供給がそれだけ多く行われているし、また、団粒化の速度も大きいのであろう。ただ、中村さんの畑を観て、もうひとつの原因を考えた。それは、あまり気にされないが、<上と下でひとつ>ということ。
たんじゅん農法では、施肥しない代わりに、作物は、微生物に育てもらっている。貧栄養環境の下では、微生物の中でも、根部エンドファイトと呼ばれる、あるいは菌根菌ともいわれる菌類(キノコ菌など)が大事な役をしていることが、最近の研究から分かってきている。(補足2 参照)
作物の根の中に、菌類は入りこんでいて、一体不離の生活を営んでいる。作物が元気でないと、菌類は、それから、エネルギー源(糖分)をもらえない。菌類が元気でないと、作物は、土中の広い範囲からのミネラル、水分などをもらえない。だから、無施肥農法では、菌類を飼うことが肝要になる。それには、炭素資材を菌類に与え続けること。(植物にすぐに吸収される肥料を与えると、バクテリアが増え、菌類は死滅・分解される)
炭素資材によって、菌類が増えれば増えるほど、菌類は、生きるエネルギーも比例して必要になる。それを作物から補給してもらうことになる。
言いかえれば、上の作物があって、下の微生物(菌類)が生きられる。また、下の微生物(菌類)が生き続けるには、上の作物があってこそ。肥料のない環境では、上と下がひとつになって、お互いが育つということになる。たんじゅん農法では、作物を収穫し終わると、すぐに、次の苗を植える。そのわずか、2,3日の間に、中村さんは、炭素資材を入れて、耕し、微生物のエサをやっている。
これは、単に畑の回転をよくし、収益を上げるためだけではない。年中、作物ができるだけでなく、また、菌類の活動を活発にさせ、団粒化の速度を上げている。その結果として、団粒化を進むと、発酵型の土、多様な微生物と作物の共生環境を整え、作物が元気に、おいしく育つことになる。
写真左 団粒化が進むと大根を引き抜いても、穴がそのまま残るようになる。 写真右 そうなると、大根の葉が、左右対称形になり、大根の根も、葉も、おいしくなる。
ところが、上の作物だけとか、下の微生物だけとか、片方がなければ、畑は(作物の進化も)、休眠状態になる。
中村さんは、一年中、5haの畑が、何も植わっていないことのないように、忠実に植え続けている。今回見せてもらった畑も、冬なのに、ほとんど作物が植わっていて、何も植わっていないところは、ちょうど収穫が終わって、トラクターで耕したところであった。
一方、日本では、炭素資材を年中入れ続けている方はいるが、年中作物で覆われているという畑は、少ないのではなかろうか。それでは、作物が無い間は、菌根菌は活躍する場がないということになり、団粒化はストップしている。それは、仕方のない面もある。日本には、冬があり、年中作物を育てるというわけにいかない。
上と下がそろわないと後退する
いや、もしかすると、上と下のどちらかが用意されていない畑では、団粒化は停止ではなく、むしろ、後退するのではなかろうか。菌類が減少すれば、団粒化できなくなるからである。
その例を、ブラジルでみさせてもらった。その方は、有機認証を取っているぐらいだから、熱心は有機農業の農家。林さんから薦められて、たんじゅん農法をはじめて、もう5,6年。いわば、転換後、数年たっている。中村さんの畑から、一時間のところだから、年中作物は栽培されている。畑はつねに、何かの作物が植えられている。中村さんの畑とほぼ同じ条件だ。
ところが、違うのは、上を下がそろっていないこと。
その方は、たんじゅん農法を薦められて、ある程度、義理もからんでやっている。だから、たんじゅん農法によって、ある程度成果が出てくると、昨年は1年ばかり、炭素資材を1時間かけて取りに行くのが面倒になって、その投入をやめてしまった。その間は、代わりに、有機認証の農家なので、それで許可されている有機肥料、油かすなどを入れていた。
その結果、どうなったか。作物は、売るために、常に作り続けている。上はできている。だが、しかし、下の菌類は1年以上、エサがもらえない状態が続いた。
5,6年のうち、1年炭素資材の投入をやめただけだから、期間的には、4,5年、たんじゅん農法をやっていることになる。そして、また、昨年暮れから、炭素資材の投入を再開した。
では、その畑の団粒化度を、例の棒で調べてみた。1m20cm~1m50cmぐらい。(中村さんの場合は、転換2年3カ月で、1m50cm~3.0mであった。)
いくら暖かなブラジルでも、上と下がそろっていないと、5,6年たっても、団粒化は進まないことがわかる。むしろ、昨年一年下を入れなかった分、団粒化は後退したのかもしれない。
写真 ブラジルの「たんじゅん農法1年休んだ」有機農家 右奥にスプリンクラーの水が見える
実際、その有機農家は、雨が2週間も降らないので、野菜の出来が悪く、毎日、スプリンクラーで水をかけている。中村さんの畑では、水やりをしていない。
手抜きのコツ
常に、畑に作物を作り続け、微生物にエサを入れ続けることの大事さは、この農法の基本、いや、健康でおいしい野菜を育てるコツ。
そうなると、大変な農業だということになる。
ところが、それを、5haも、二人でやっている。(草取りは一人雇っている)。働き者の中村さん夫婦だからやれるとしても、世界でもまれにみる方・・・。日本では、そんなにやっている方は、いない。やろうとしてもやれない。
では、なぜやれているのだろうか。
第一に大規模にやれている理由は、野菜や土地の管理がほとんどいらないこと。
野菜は、どれもきれいに育っていて、元気だ。草かきは、小さい間に、1,2回しているようだが、そのほか手間はいらない。葉物が主な作物だから、ほとんど手がかからない。草もだんだん減ってくる。
写真左 草は収穫前もほとんどなし 写真右 収穫したあとも残さは腐らない 梳き込んでしまう
後は、収穫だけ。収穫も、いるところだけ取って、後は、トラクターをかけて、梳き込んでしまう。そのあと、新しい苗を植える。
植えた後、1回水やりするだけで、収穫まで、水やりをしなくて済む。いや、水をやりをしらないから、雨がずっと降らなくても、水をやらないで済む。水をやり続けると、団粒化した土の空気層が水で埋められるので、菌類は息ができない。菌類は、動物に近いので、水はいらない、「水分」だけでいい。それよりも何よりも、空気がいる。そのためにも、できるだけ、水はやらないほうがいい。
水はなくても、団粒化すると、その土の「水分」で十分微生物は生きれる。その水分を菌糸が四方八方から集めてくれるので、野菜の水やりは微生物に任せればいい。要するに、たんじゅん農法だから、水やりも、大規模に、手抜きでやれる。
第二の大規模にやれているわけは、苗が小さくて、丈夫なものができること。
苗は、トレーに種をまき、小さなプラグ苗を育てている。「土」は、廃菌床とヤシがら。肥料気のないものを使っている。植えごろの苗を見せてもらったが、葉は5cmぐらいなのに、白根はとても茂っていた。しかも軽い。葉をもって、トレーから引き抜いて、振っても、葉がちぎれない。さらに、こうやって育てると、5cmぐらいで成長が止まって、苗の植え時が1週間以上遅れても、待ってくれる。大量に植える時は、この点は都合がいい。
これなら、畑で、次々と植えていくにも、かさばらないし、軽くて、運びやすい。いや、それだけでなく、根が十分なので、活着がいい。水やりは、植える際、一回だけですむ。
もちろん、苗を育てる段階で、できるだけ水やりを控えて育てているから、それができる。畑に植える直前、カラカラの状態にしておけば、植えた際、もらう水で、活着する。もちろん、団粒化している土があるからだ。
この苗植えの、手間が最小限であることも、大規模に、しかも、手抜きできるポイントである。
第三は、たんじゅんで、迷いがないこと。やっている方の頭の問題。
中村さんは、他のことを考えていない。「野菜をたんじゅん農法で育てる」ことだけ。いい野菜、大きい野菜、元気な野菜、おいしい野菜をめざして、未来側からやっている。やっていると、そうなる。すると、もっとやりたくなる、それだけでやってきた。
売るのは、息子任せ。作ることだけに専念すればいい。
息子は、あちこちの農家の野菜の集荷し、売り先に届ける仕事をしている。中村さんの野菜が、ほかの農家が作るものと同じか、それ以上でないと、引き取ってくれない。非常に簡単な指標があるから、迷いがない。いいわけがない。
迷いがないことは、余計なマイナスの精神的なエネルギーを使わないから、肉体的な疲れだけで、済む。そのうえに、やればやるほど、いい野菜ができれば、プラスの精神的な力が湧いてくる。
その底には、もともと、何もないところからやってきた、ゼロの強さがありそうだ。たとえ、何も(一時期)できなくても、うろたえない、芯の強さを感じる。過去に基準のない強み、未来に基準のある強みと言ってもいいかもしれない。
機械化が課題
「来年は、3mの棒では足らないな」と林さんがいうと、中村さんは「ハハハ」と大きく口を開けて笑った。
畑が広くなり、作物がたくさんできてくると、夜明けから仕事をはじめ、夜は、ヘッドライトをつけて、7時、8時まで収穫をすることもあるという。奥さんに「何か大変なことはある?」と聞くと、「遅くまで働くのは何ともないけど、どんどん野菜が大きくなって、収穫が大変。車のあるところまで、運び出すのに、重くて」と言って、笑った。そうだろう。身体はそんなに大きくない。手作業だけで、今は、運び出している。ブラジルでは、野菜農家は、全部手作業。日本にあるような、運搬機とか、苗植え機とかはない。これから、たんじゅん農法が広がり、大規模な野菜作りが進んでいけば、そういった面の得意な方が協力して、奥さんが楽になったなと、喜ぶ畑になるかもしれない。
いや、その日も近いであろう。
この訪ねた日も、迫真一さんという、大型農業機械を作っている方が来て、林さんと畑を観て回っていた。
迫さんは、赤レンガの大地をⅤ字型に70cmも深く耕していくトラクターや、草や木を砕きながら、畑にすき込んでいく機械を開発している方。「生き物の世話はめんどうで、やらない。機械作りが好き」という林さんと、迫さんが組んで、知恵を出し合えば、たんじゅん農法に適した機械ができていくのではなかろうか。
「今度は、だれが日本からくるでしょうかね。これから、たくさん来ますよ」と言うと、「またね。待ってます」と笑顔でいいながら、分厚い手で握手をして、中村夫婦が見送ってくれた。
ありがとうございます。
日本でも、この中村さんの成果に学んで、一年中、上と下を育てる。土地を遊ばせない。空かさない。そのたんじゅんなマネをしてみる価値があるのではと、考えた。野菜が育たなければ、麦でも、緑肥でも、あるいは、雑草でも、植えればいい。
補足1 鬼に金棒、たんじゅんに団粒棒
日本にはあるものでブラジルにないもの。いくらでもある。野菜の支柱に使う1.5mの緑の棒がブラジルにはない。ないから、作る。その楽しみがある。中村さんの苗ハウスは、手作りだった。
土の団粒化を調べる棒もないから、手作り。作ったのは、生き物の世話はキライ。機械いじりは大好きという林幸美さん。フツーーのものは作らない。直径1cm、長さ1mの鉄棒を、ねじで、つないで、伸ばせる。端に、紡錘形の先がねじで留められる。反対側は、T字型のものを取り付けると、土に刺しやすい。
先の紡錘形のものは、23mmの方を、使った。これは、日本にはない。いや、そのうち、日本にも必要になれば、だれか作る。
森のように、畑と違って、肥料が与えられないところで、なぜ、植物が育つのか、その研究が進んでいる。貧栄養下で、植物が育つ仕組み。それは、根部エンドファイトと呼ばれる、菌類が大事な役をしていることが、最近分かってきている。
『微生物が森を育てる』西尾道徳(農文協)6pより
根部エンドファイト、それは、菌根菌ともいわれている。植物の根に張り付いて、根の中に入り、さらに、細胞の中にまで入りこんでいて、作物の根と、菌類は、共生関係にある。
写真左 茶色が根、白色が菌根菌が付着した根。 写真中 根に菌根菌の菌糸が付着している 写真右 根の細胞の中まで、菌根菌の菌糸が伸びて広がっている
しかも、その菌根菌は、植物の根の数倍も、数十倍も、菌糸を土中に伸ばし、張り巡らしていることが、写真で撮影されている。これは、貧栄養環境でのみ、張り巡らされる。
写真左 キノコ菌と植物の根の関係 写真右 松の実の幼生 茶色の3本が松の根。後の白い糸状のものは、菌類(菌根菌)菌類は、菌糸を伸ばして、遠くからミネラルや水分などを遠くから運んできて、作物に渡す。作物は、光合成による糖分を菌類に与えている。糖分は、菌類にとっては、生きるエネルギー源だ。したがって、作物も、菌類も、どちらも、相手がなくては生きられない相互依存の関係にある。
ところが、肥料があると、違ってくる。肥料とは、水に溶けて、作物がすぐに吸収できるもの。それがあると、多様な微生物層の中で、最下層のバクテリアのみに養分供給が行われる環境になるために、バクテリアのみが活性化する。その環境では、上層の微生物は、次第にそれより下層の微生物のエサになっていく。結果的に、肥料のある環境では、最上層の「菌類」は消える。
植物の根は、菌根菌が消え、丸裸になる。しかし、そこには、水に溶けてすぐ吸収できる「肥料」がたくさんあるので、それを吸って、植物は生きていくことになる。しかし、そのことは、植物にとっては、本来の好ましい環境ではなくて、窒素の多い、富栄養化の、腐敗型の環境になる。
しかし、それは、まだ、人間の側からの観方、人間という自己を基準にしている。共生関係は、単に、植物と菌類だけではなく、植物と、菌類を含む多様な微生物層との共生関係とみるのが、自然を基準にした観方であろう。
あくまでも、人間すなわち自己の側に基準(小さな点からの視点)を置くのではなく、自然・天然の側に基準を置くこと(生活・仕事・働き)である。その結果として、自然・天然のとてつもない大きな働き、仕組みを、人間の味方につけることになろう。
人間の思いが、自然の意思と一致したとき、自然は人間にすべてを与える。
Comments are closed