参考資料2
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炭素循環農法
( 月刊雑誌『現代農業』農文協2009年10月号より抜粋)      城 雄二
肥料分はいっさい入れず、廃菌床やチップや半生の草など炭素率(C/N比)の高いものをひたすら大量に投入していくだけで、慣行農法の2倍の収量を上げられる――。そんなブラジル発の「炭素循環農法」(2004年10月号以来たびたび紹介)に取り組む人が、ジワジワ増えてきている。 日本で実践者のネットワークを作ろうとしている城雄二さんに、その実践談と見えてきた課題を紹介いただく。 (編集部)

粘土質の畑が4カ月でホカホカに
無農薬有機でやってきて10年。粘土質の茶畑と田んぼを3年前に借りて畑にしてみたが、ご近所の忠告どおり、タマネギもニンジンもダイコンもうまくできない。
ところが、今年3月に知った農法に変えて4カ月。土がホカホカに変わってきた。
使った資材は、キノコの菌床や木材チップ・せん定の枝葉・草。すべて生。それらを畑に敷いて、表面を5cmかき混ぜただけなのに、大変化。
ジャガイモの土寄せがラクになった。ダイコンを春に播くといつも虫にやられるが、今年はそれがなく、小学生の「足」くらいになった。春に播いたハクサイは、アオムシがつかず、冬よりも立派に育った。ヤマイモも、例年夏には葉が虫のエサになるが、今年は葉が茂る。エンドウを比較実験したら、有機肥料のほうはハモグリで葉が黄変したが、新農法では元気で、たくさん収穫できた。一面に生えていたジシバリが腰を浮かせ、たやすく抜ける。草の種類も変わってきた…。
この農法は「炭素循環農法」(愛称「たんじゅん農法」)という。じつは昔から一部の篤農家がやってきた農法。ただ原理がわからなくて、誰でもマネできなかった。それを、林幸美さん(インターネットで「炭素循環農法 百姓モドキの有機農法講座」を開設。ブラジル在住)が自然の側から整理し、マネのできるものにした(その講座の引用は『 』で示す)。

「発酵型」の畑なら、虫がつかない、収量があがる、おいしくなる…
『虫がつく作物は虫のエサで、人間の食べものではない。虫は腐敗を好む。化学肥料や堆肥を入れれば腐敗層ができ、「腐敗型」の微生物やミミズが増える。味はまずくなり、土は固くなる…』
エー、堆肥を入れるほど腐敗型になって土が固くなる? 常識とは違う。でも確かに、畑はその通り!?
『一般に自然農法といっているものも、たいていは人間の考え(耕さない、草を取らない)に縛られている。マネしてもうまくいかない。だから(人が)頑張る。頑張らなければならないのは、自然の法則に逆らっている証拠。
不自然はいいが、反自然はまちがい。自然の側から、自然の知恵、法則に任せていけば、土は「腐敗型」から「発酵型」への転換が進み、万事うまくいく。それが自然の仕組み』
「腐敗型」と「発酵型」の違いは、腐敗菌が主か、発酵菌が主かの違い。酸素が不足し、炭素に対してチッソが多くなると腐敗型の土になる。化学肥料や堆肥を入れている一般の畑ではチッソが多く、酸素不足の土中では腐敗はまぬがれないという。
『いま日本では腐敗型の土が一般的であるが、発酵型に転換すればうまくいく。転換後ふつう2~3年かかる。すると作物がおいしく、虫がつかなく、収量が普通以上になり、資材代も安くなる。連作できる。いや、マメ以外は、連作するほうがいい。収穫したらすぐ次を植える。これは大規模農家でも家庭菜園でもプランターでも可能な、生産性の高い手抜き農法である。世界中の人が食べていける農業が、〈自然〉農業』
そんなうまい話があるものだろうか? 誰でも、どこでもやれる実践法なのか? それは、やって確かめるしかない。実践している方を長野・神奈川・愛知と訪ねてみた。納得、納得。

ポイント(1) 肥料をやめる
チッソは腐敗菌を増やす
この農法の第一のポイントは、肥料をやめることだという。
『人間の食べものは、発酵型の土から育つ。山の土は発酵型。山にミミズはまれ。
畑を発酵型にするには、作物には肥料という考えをやめること。人間の食べものに肥料は不要。むしろ、害になる』
なぜか。チッソを肥料とする農学に基づいた農業では、化学肥料も堆肥も欠かせない。しかしそれが炭素に対するチッソ比を高め、腐敗菌の住み家を提供し、まずい野菜、人間の食べものではなく病気や虫の好む野菜を育てた。それは、「作物を育てるのは肥料」という考えがはまった迷路なのである。
ポイント(2) 炭素の「卸商」を飼う
生の炭素資材をジワジワ分解常に余分な肥料がない
では、どうするのか。要は、いつも土中に肥料がない状態が理想。肥料を与えるのが人の役とする迷信をやめて、発酵型の微生物の住む環境を用意する役に「頭」を転換すること。つまり第2のポイントは、野菜育ては微生物に任せ、農家は発酵を助ける微生物を飼う役に専念する。そのためには…
『チッソに対する炭素を増やすことがポイント(C/N比40が目安)。世界の人口を養うための畑の炭素量は、野菜の光合成だけでは足らない。それでこの農法では、畑に炭素資材を「山」の数倍も、堆肥にしないで生で供給する』
生で腐りにくい有機質はC/N比が40以上と高い。腐りやすいものはC/N比が低く、10程度。
炭素資材が野菜の根に届くまでには、炭素の「卸商」と「小売商」の2種類の微生物が働く。炭素の「卸商」は、糸状菌などの菌類。「小売商」は、バクテリアなどの細菌類。
「卸商」は、枯葉などの炭素資材を中間物質に分解し、粘っこいものを出して包み、一時保管する。それが土の「団粒化」。空気が入り、水はけもよく、発酵型の畑になる。
いっぽう「小売商」は、「卸商」が用意した中間物質などを完全に分解して、最後は無機質にするのが役割である。世にあるものを生命のピラミッドの底辺に戻す浄化の役割をしている。もちろん、「卸商」も、「小売商」によって最終的に消される。
C/N比の低い堆肥などを入れる一般の畑では、「小売商」はいるが、「卸商」はほとんどいない。これが腐敗型。作物は、富栄養化した環境で病気がちになり、虫がつく。味も腐敗型で、生産性も上がらない。耕しても、雨が降るとすぐに土が硬くなる。
それに対してこの農法では、「卸商」が炭素資材から作った団粒化した「中間物質倉庫」から、「小売商」が炭素を少しずつ取り出し、せっせと分解して養分をつくる。それをすぐに植物の根が吸収していく。だから土中には余分な肥料がない。作物は、小売商におんぶにだっこのその日暮らし。
つまり農家の仕事は、「卸商」となる微生物の飼育。生の炭素資材を与えて、炭素の「卸商」を飼い続けること。木やせん定枝のチップ・草・生の野菜…。種類も量も、腐敗しないなら、なんでも、いくらでも入れていいという。
年間で反当 10tの炭素資材―入れるたびに数cmかき混ぜるといい
そこで、この春から合計2反の田畑でこの農法の検証を始めた。畑には肥料も堆肥も入れない。「卸商」である糸状菌は、畑にもいる。それにエサとして、チップや草や葉、キノコの廃菌床など、堆肥にしないで生のまま1,2cm撒いて、5cmぐらいの表土と和える。(ただし、チップは、数か月山に積んで、発酵が始まり、匂い成分が抜けてから、使う)。
供給量のポイントは、入れたものが腐らない程度。資材を2カ月おきぐらいに入れ続ける。おいしい作物をたくさんとるには、年間で炭素資材を10a当たり10t入れるのが目安。平均すると、毎月、厚さ1cm炭素資材を入れる。
すると、土中の糸状菌によって、炭素資材は徐々に分解され、数カ月でフカフカの土になった。土は富栄養化していないので虫もいなく、徐々に発酵型の野菜ができつつある。
作物の世話は、人間よりも微生物のほうが上手。人間がするのは大きなお世話! 農業の常識とは違うが、直感では、そのほうがホントの気がする。実際、徐々に成果が出てきている。まだ、これからだが…楽しみ。

埋もれた炭素資材を活かしたい
「たんじゅん農法」は、長い方でもまだ数年。ほとんどは最近始めた方。でもこういう時代だから、この農法の原理や方法に関心は高まっている。今年も春にブラジルから林さんが帰られ、2カ月間、日本全国20カ所の圃場を手弁当で回られた際、新しい方たちと活発に意見交換がなされた。
ネットのmixi(炭素循環農法)でも、情報を交換しあっている。
今後の一番の課題は、慣行農法の2倍の収量を得るには炭素資材が供給不足であること。日本は資材が豊富だが、埋もれている。茶葉・モミガラ・廃材・竹なども活かしたい。
もう一つは、キノコの廃菌床が手に入りにくいこと。それでチップと草、それに1m2あたりスプーン3杯の米ヌカで手作りする(雨の当たらないところで、山に積んで2~3カ月放置する、あるいは畑に直接撒いて徐々にチップが発酵するのを待つ)手もある。
まだ実践者が少ないので、お互いに情報交換をしあって交流を深め、資材を地域で手に入れやすくする知恵や仕組みを作っていくことも課題である。そうすることで、農業を目指す、あるいは目指したい若い方たちに、高い生産性をあげ、家族が楽しく生活できる農法であるかどうか、農の復活に向けて、示していきたい。
参考;原理・考え方は、ホームページ『炭素循環農法』
http://tan.tobiiro.jp/

連絡先 城 雄二 メール;tanjun5s@gmail.com (静岡県掛川市上西郷7043)
2010-02-27(23:29)