19. 水田?(水作り)
イネは50%を地力で育てるといわれるように、施肥障害(連作障害=イモチ病、虫害、倒伏など)に非常に敏感。そのため施肥量が露地野菜の1/4ほどと少なく、汚染も比較的軽微?。条件も均一(湛水)で技術的にも単純、転換が容易(3年)。原理的には畑と同じですが土壌(水?)構造は畑と違い毎年作り直します。
餌は残渣=株・ワラだけで十分。ただ、水田の顕著な特徴として、餌切れと同時に第四の相(生物相)が消え腐敗が始まるため、少ない場合は追加します。稲刈り後、何をさておいても耕起・攪拌。成否は秋で決まります。
腐敗を防ぐ(雪と美味しい米)
美味しい米=土壌の発酵。生の有機物では代かき後の湛水条件下で腐敗するため刈り取り後、直ちに土や水、雪などで作物残滓を覆い前処理=発酵処理(秋起こし、冬季湛水、根雪利用など)をして腐敗を防ぎます。好都合なことに低温期は(バクテリアが活動できずキノコ菌が活性化)、前処理さえすれば容易に発酵分解に移行します。
美味しい米:
理化学検査(食味計など)は「美味しさや不味さ」を直接計っているわけではなく慣行農法の米とは数値の出方が違い要注意。本当の美味しさは食感と発酵味。現在、美味しい米といわれているのは味より食感(デンプン中のアミロースとアミロペクチンの割合など)。低アミロースで粘りのある米が好まれている。品種改良の結果食感は良くなった。しかし「見た目は確かに米なのに米の味がしていない!」というのが実態。50年前の米は米の味がしていたのである。
前処理:
積雪地帯は根雪で長期間ワラが覆われ、事実上の発酵処理が自然状態で行われ美味しい米の産地として知られている。冬期湛水も同原理。雪の少ない冬期乾燥地や温暖地では必ず秋起こし。更に冬期雑草対策(繁茂させると腐敗)を兼ね、代かきまでに更に2回浅く混ぜる。それ以上混ぜ、空気を入れ過ぎると有機物を浪費、餌不足による減収や腐敗を招く。
前処理をせず、ひこばえ放置、雑草繁茂、稲ワラが代かき時に浮くようであれば腐敗は必至(吹き寄せられたら取り除く)。メタンガスや硫化水素(温室効果ガス)がブクブクと吹き出し根痛み、病虫害、環境破壊を招きます。前処理は冬になってからでは遅過ぎ「秋起こし」でなければ間に合いません。同じ理由から麦類の裏作もダメ。マメ科緑肥(レンゲ、ヘアリーベッチ)など論外です。
冬になってからでは:
分解期間が足りずやはり腐敗。一連の施肥害(腐敗成分生成・窒素無機化=環境適応力低下・病虫害・食味低下など)が現れる。有機農法で流行っている?春先のマメ科緑肥の鋤込みは腐敗の酷さに雑草さえも腐るとか・・・?=腐敗除草?。麦をやりたければ夏はダイズ、水田と畑を同一視してはいけない。
淀んだ水は腐敗し濁ります。濁りは腐敗の証拠、水は常に澄んでいなければならないのです。澄んでいれば藻などが水中の酸素を増やし、発酵状態を維持します。濁っていては水中での光合成(酸素の補給、炭素循環)ができません。典型例はアイガモ・コイ農法など。その実態は、自然風施肥・防除栽培です。
濁りは腐敗の証拠:
一旦、綺麗に澄み発生し始めたサヤミドロは消え、何処からともなく多種多様な水棲生物(ザリガニ、ジャンボタニシ、水棲昆虫、他)が湧き出し、難防除沼地雑草も繁茂。上空には舞い上がる虫を求めてトンボ、ツバメが飛び交い、イネにはウンカ、カメムシ、イナゴ、スズメなどが群がりイノシシが掘り返す。一般的に言われる多様化=地下の多様性消失現象が起きる。
サヤミドロ:
藻の一種。これを育て炭素固定や水中の酸素の供給源とする栽培法がある。不耕起、収穫まで水を張ったまま。有毒ガスが発生せず根が野生化。土の酸化還元電位を還元側にする。省力・省エネ・低コストで慣行以上の多収穫。・不耕起農法による農業革命で農薬・化学肥料をゼロに!より。(注:但し不耕起は結果。拘るのは馬鹿げている、保水性が悪くなり雑草のコントロールもできない致命的欠陥となる)
高い生産性
転換すると蔬菜類は成育期間が短縮しますが種や実を穫る物は、健康長寿=成育・栽培期間の大幅増=急に枯れずに、ゆっくり稔る(枯死ではなく登熟)。茎葉が緑の内は穀粒が太り続け未熟米がなくなり増収。栽培時期・期間や栽植体系の再検討が必要。従来通りの刈り取りでは早過ぎます。収穫を遅らせても生きているため脱粒や品質低下は起きません。
再検討:
早植え遅刈り(1ヶ月以上延長)。田植え収穫は洗練され発達した慣行の技術・設備・機械をそのまま使いほぼ慣行。育苗は慣行、やや密植~分けつ倍増ならやや疎植。自然栽培などの大苗・手植え・疎植は、地力=水力?が無いから仕方なく・・・。意味も分からず真似しない。
真の自然農法=炭素循環農法の米作りでは、1/3を土(地力)で、2/3を水(水力?)で育てると思って下さい。水だけで施肥の倍程度の養分供給が可能。水田の水は畑の耕土、土は心土に相当。当然、餌は耕土(水)に入れます。
1/3を土で:
土(地力)で約4~5俵/10a、同量を施肥で、これが慣行的な標準収量=8~10俵/10aの内訳。無施肥では土で4~5俵 + 水で8~10俵/10a。一応の目安は慣行対比、50%増の12~15俵/10a。
耕起、雑草、水管理
餌を水中(土の上)の微生物に与えれば、原理的には耕起不要な筈です。しかし、実際には一定の条件が整わず耕起・代かきは必須です。これは生(活)かすための作業(自然の仕組みの活用)、耕起したからといって何のマイナスも生じません。
一定の条件:
保水性が良く、雑草が殆ど無い、早期に株が枯れる、根雪や水で有機物を覆い春までに適度に分解できる。等の条件が整えば餌(有機物)を土の表面に置いたままで耕起・代かきは不要。しかし、難防除雑草が多ければ田植え前に浅水状態で水温を上げ「発芽促進→浅く攪拌除草」を繰り返す。秋まで落水しないため乾田の雑草対策は無用。何れにしてもこれは極限られた地域の特殊例であり不耕起は推奨できない。
イネは低温に敏感。不耕起でザル状態・大量注水では水温低下=減収、水の無駄遣い。水田の耕起・代かきの目的の一つは、保水層(鋤床)の形成。残滓の前処理(秋起こし)をキッチリとし、従来通りの代かきをします(畑作後や休耕田は特に念入りに)。
低温に敏感:
冬期、特に手を加えなくても湧き水で湛水状態にできる(なる)水田(低湿地や沼沢地)は低収量、冬期湛水は良いが冷たい水で常に水浸しではダメ。人でも植物でも“頭寒足熱”。下から根を冷やさないよう、湧き水は暗渠などでキッチリと排水、暖かい水を上から与える。熱帯原産のイネは、地上部の適度な寒暖変化はよいが根は暖かく一定温度が良い。
比熱の大きい水を大量に貯める深水管理が有効。昼の高温を和らげ夜の冷え込みも防ぎます(低温障害、高温障害対策)。但し、従来の一般的な管理のまま単に深水にすれば有害です。
単に深水にすれば:
分けつが抑制され、更に中干しで分けつを止めれば穂数不足から減収。同時に微生物の死で、一時的に無機化された肥効成分により窒素過剰吸収(施肥害)。その後は養分供給源(半分は地力)の死滅で更なる減収となる。
雪解け水は冷たくマイナス要因(収量低下=不味い米)。水は綺麗な必要はなくドブ状態でも暖かい方が良いのです。
冷たくマイナス要因:
「融雪水が美味しい米を作る」の嘘。融雪水による冷水温障害克服を目的にした秋田県鳥海山山麓の上郷温水路群。「一度一俵」水温が1度上がる毎に1俵/反の増収になると言われている。
ドブ状態でも:
水田の地表面全体が生物層(相)=浄化層(槽)。流れがなくても腐敗しない。用水路に肥料、家庭排水などが溢れ出していても、生物層の上を10mほど流れれば完全に浄化され、虫も棲まないキラキラ光る美味しい水=スズメも食べない美味しい米に変わる。日本全体なら250万haの巨大浄浄化槽(2013)となる。
水温を上げ、温度変化を最小にするために冷水対策をし、注水は昼夜連続24時間休むことなく、収穫前の落水まで、あふれない程度に入れっぱなしにします。茎の基部にある成長点(葉や穂の原基)を温かい水で保護、冷害・熱波対策(気温変化の緩和)、深水による分けつ数の減少回避にもなります。
冷水対策:
温水池、温水路(黒マルチ用シート張りの迂回水路)、温水チューブなど。水温の低い地域で冷水対策なしの掛け流しはダメ。出穂前25日間ほどは特に冷害を受けやすく、逆に出穂~登熟期は高温障害を受けやすい。
そして中干し厳禁。干せば生物相(トロトロ層)が消え養分供給不能に陥るだけでなく腐敗が始まります。前処理(秋起こし)により腐敗がなければガス抜き不要。乾土効果や穂肥に頼る必要もありません。
中干し:
土用干しとも。腐敗が最も酷くなる土用の頃、干すことにより土壌中に酸素を入れ腐敗を緩和。有害な腐敗成分の分解・ガス抜き、乾土効果(微生物の肥料化)も兼ねる。しかし処理後、微生物が減り肥切れを起こし穂肥(追肥)が必要になる。典型的な施肥・防除技術。
水田と畑の違い
水田では水が耕土代わり、豊富な酸素と養分を含む水(トロトロ層)はゆっくりと土壌中に浸透し、間断なくイネに酸素と養分を供給します。水田でも微生物を飼うだけです。
トロトロ層:
水田固有の生物層(土の三相:固相・液相・気相 + 第四の相=生相)。土と水の境界に分離・独立した形で層状に形成される。液状に近いゲル状=固まらない水の層。一見、土のように見えるが水、微生物、その分泌物及び排泄物、微細な粘土粒子から成る。有機物量に応じ厚くなり、収穫(乾田)時にはリセットされる(消える)。そのため形成には毎年一定量の資材=作物残渣を必要とする。
代かき時の攪拌で土粒子の沈降速度差からできる、下~上(粗粒=スポンジ様~微粒=クリーム様)と分離した層構造は単なる泥の層だが、微細な有機物粒子は土より軽く最後に沈殿、最上部に積もる。これに微生物が大量増殖し生相が形成されると考えられる(水と分離する仕組みは比重差?)。推測通りなら、前処理で有機物が十分細粒化するよう分解させ、上代かきは深めの水深で丁寧に仕上げるのが良い。この際どんなに攪拌しても、乾田時と違い空気に触れず過剰分解の懸念はない。
水田の水は微生物の培養液と考えるのが妥当。当然、量が多い(深水)ほど安定します。水田特有のアオミドロや浮き草は、きれいな水(貧栄養)には発生しません。水も土と同様、肥効成分があってはならないのです。水は日光が透過し、比熱が大きく、循環が早いため微生物を生かすのには、土より遥かに優れていてコントロールも容易です。この水を活用しなかったり、落とすことは金をドブに捨てるようなもの。畑は土作り。田は「水作り」。
量が多い(深水)ほど:
用水が十分無い場合はヒタヒタでも良い。均平作業を丁寧にし、乾かしさえしなければ生相は形成され、サヤミドロも繁殖。天候不順でもない限り収量・品質に影響はない。
アオミドロや浮き草:
施肥や腐敗により生じた水中の肥効成分を使い大量発生。日光を遮り藻、水草などによる光合成を妨げ酸素供給や養分循環を阻害する。
収穫前には従来通り作業性を良くするためにキッチリ干し、養分(生物層)を使い切ります(好気状態では腐敗・無機化は起きない)。畑と違い毎年作り直せるのが水田の強み、リセット(干)して構いません(転換が容易で確実な理由)。
一部の自然栽培のようにリセットを恐れ、沼田で手除草・手刈り・天日干しなぞ何の意味もありません。技術は見かけに惑わされず、その意味を理解してから使うことです。
手除草・手刈り・天日干し:
一生懸命努力は反自然の証、徒労以外の何ものでもない。収穫時から発酵が始まる米にすれば下手な小細工など必要ない。沼田や手除草(チェーン、米糠なども)=低収量=不味い米。この原因は腐敗=環境破壊。腐敗が無ければ沼にはならず雑草も生えない。水を落とせば速やかに乾きコンバインが入れられる。
天日干ししたからといって不味い米が美味く上質になるわけではない。質が悪いからゆっくり天日で干さざるを得ないだけ。籾を最も痛めないのは陰干し(冷風機械乾燥)。それでもと言うのなら体ではなく頭を使う。刈り取り後のワラから籾への養分移行は無視できるほど微量、コンバインで収穫し籾だけの天日干しでも同じこと(何れにしても差別化詐欺・・・?)。長いワラを刻んで田に戻す手間も省け大幅に作業量が減る。
更なる手抜き。畦の草刈りと、草の処理(刈草が水田に落ちると腐敗)の手間を省き、漏水防止をも兼ねた畦の黒マルチが有効(シートの端を鋤床まで深く入れ畦に貼り付け土で押さえる)。更に、おまじないも・・・。
おまじない:
雑草が消える?。理屈(結晶を歪ませる?)抜きで効果があれば良しとする ^^;。焼き塩100g/10aを代かき時にパラパラと水面に撒く(畑では2000倍液を200L/10a)。
焼き塩:海塩を非金属(陶器など)の器に入れ、数百度の高温(ガスバーナー)で焼く。または直接、アルコールを塩にふりかけ火を点け燃やす(注意:一般的な炒り塩では温度不足)。
転換時の餌不足(猿真似農法からは要注意)
十分量の餌を入れれば水田でも、転換後2年で慣行の収量を超えます。その時、必要な餌の量は全国平均収量時の残渣量が一応の目安。残滓量は収量にほぼ比例、平均以下なら足りない残渣分を、秋起こし時に高炭素資材で補います。
十分量の餌:
稲ワラは貴重な微生物の餌、放置してあるわけではない。焼いたり、バイオ燃料、天日干しなどと馬鹿なことを考えて持ち出さないだけで良い。肥料・農薬のなかった数十年前まで、ワラを持ち出し利用した替わりに、里山の柴刈りをして有機物の補充をしていたことを忘れてはいけない。柴を直接バイオ燃料にすればよい(嘗て人が手を入れ生産性を上げたために、余剰分が里山を荒廃させている)。
全国平均収量:
約9俵/10a。残滓量=ワラのみで数百kg/10a。追加量は根株も考慮し無処理(生)で、反収5俵以下なら1~2ton/10a。5~10俵なら0.5~1ton/10a程度(乾物量=1/2~1/3)。
高炭素資材:
雑草や枝葉が混じった比較的分解しやすいチップ(無処理)、竹チップ(無処理)あるいは木質部の多い発酵処理済みチップなど、分解の難易度がワラと同程度(C/N比=70前後)の物がよい。多少、硬い物が含まれ分解せず残っても水中では腐敗せず害はないが有効化は翌年になる。
実際には入れた以上の有機物を、分解・利用し黒く汚れた土が 3年で完全に綺麗な「土本来の色」に戻ります。不足分を足さなければ発酵状態を維持するのが難しく、慣行並みの収量になるまで2~3倍の時間を要します。
入れた以上の有機物:
腐植=酸欠・腐敗環境で分解できなかった難分解性のリグニン等が主成分。これ自体は無害だが生成過程の環境に問題がある。このことを百数十年も前に、農芸化学の父と呼ばれるリービッヒは指摘。彼は現在の農学の基礎となる無機栄養説を説くと同時に「腐食による栄養略奪論」を説いた。
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